Photos & Text by colorsmagyoge.

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2015年1月後半にハワイのパイプラインで開催された

VOLCOM PIPE PROではセミファイナル進出を果たし、

いまだ世界に最も近い日本人プロサーファーとして

多くの偉業を成し遂げ続ける大野”Mar”修聖。

国内プロ戦をほぼ総なめにした2013年とは一転して

まったく勝てなかった2014年を経て、

VOLCOM PIPE PRO 2015のセミファイナルでKelly Slaterと対戦し、

いまなお厳しい勝負の世界に身を置き続けるそんなMarが、

自分自身を直視して初めて到達した”悟り”とは!?

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colorsmag(以下c):今回セミファイナル進出を果たしたVOLCOM PIPE PROを振り返ってどうでしたか?

 

大野Mar修聖(以下M):今回の大会を振り返るというよりも、2014年、いや2013年まで振り返って、いままで自分が世界に出たい、WCTに入りたいと言いながらずっと世界のQSを回り続けてきたなかで、2013年は日本でグランドチャンプを獲って、2014年に入ってからはひたすら負けて、日本の若い子たちも出てきているなかで、改めて「本当に自分はWCTに入りたくて世界の人たちと戦ってきたのか?海外の選手と同じ意識でやりたかったのか」ということが本当だったのかと自分に尋ねてみたときに、そうじゃなく、ただ単に日本人のトップランキングを守りたかっただけの自分がいることに気がついたんですね。

でも口では世界と言ってるし、やっていることは世界で戦ってきたかも知れないけど、意識は日本のなかでの名誉とか、地位とか、そいうことを守っていたかった自分がいることに気がついて。

ということは、意識はWCTとか世界でトップに入るというところにはなかったと言ったらおかしいですけど、結局は日本の、日本のなかでの世界に通じる一番のサーファーという立場を守っていたかっただけだった、ということに気がついて、でもそれが、ここ最近になって抜けたんです。

日本の若い子たちも出てきて、彼らも世界に出て行くようになって、それを見ているなかで、もし自分の「日本の中での世界に通じる一番のサーファー」という立場がなくなったらどうしようと、怖がっていた自分がずっと居ました。いままでずっと大野ブラが世界に通じると言われ続けてきて、自分もそれに奮い立たされてきた。でもその一方で、それがなくなるのが、怖くて怖くてしょうがなかった。実際に2014年は初戦から最終戦まで日本でも世界でもまったく勝てなかったし、一体何なんだというところに来た時に、もういろいろなことを直視しなくてはいけないところに来た。

今、33歳になって、やっと自分の中にあるそういった恐怖としっかり向き合ったときに、それがすっと抜けて、それにしがみついている自分、これからもまだ行くのか?それとも違う生き方をするのか?という選択を迫られたときに、俺はシンプルに世界のフィールドでサーフィンをしたいと思った。

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だから、世界のフィールドでやりたいという自分に気がついたことが、今回のVOLCOM PIPE PROでの結果につながったのではないかと思ってます。

かと言って、今回のVOLCOM PIPE PROでは最初のヒートからセミファイナルまで9ptを出して来たわけでもなく、淡々と勝ち上がってきて、「あ、こいつセミファイナルにいたの!?」みたいな流れでずっと来たと思うんですけど、今までだったらクォーターファイナルとかセミファイナルになったときに、海外の選手とか、外人と日本人みたいな話し方、見方をしていたけど、それもすっと抜けて取れて、すべてを超越して自分のど真ん中にいることができた。で、セミファイナルにきてKelly Slaterと対戦することになって、そのKelly Slaterとのヒートで自分からサイクアウトして、そのことによって改めてそういう自分に気がつかされて。何かすべてがステップを踏んでここまできたというか。

だから、コンテストはもちろんですけど、もっと幅広い意味で、これからがすごく楽しみです。

なんか今までよりも広い視野ですべてのことを見ることができているようになりました。

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f/s Pipeline Tube by Mar Ohno in VOLCOM PIPE PRO 2015.

 

c:Kelly Slaterと対戦したセミファイナルについて聞かせてください。

 

M:セミファイナルに入った時にも勝ちたいという気持ちはあったし、そこまでのクォーターファイナルまでもヒートに入っている限りはもちろん勝ちたいという気持ちを持って挑んでいるのは当たり前なんですけど、その一方で負けることもあるというのも自分のなかでわかっていて、それでもやっぱり勝ちたい。

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Kelly Slater.

 

でもいざヒートの中に入れば、そんな思いはまったくなくて、もう本当に波が来たから乗る、セットが入ってきたから向かうという、本当にシンプルにその一瞬一瞬を生きながら、野生の勘じゃないけど、そんなふうにできていたのが、セミファイナルでKelly Slaterがヒートに入ってきた瞬間に、それがバラバラになった。

勝手に自分でドラマを作って、Kelly Slaterが9ptとか8ptを出して、一体俺はどうやったらこのヒートを勝ちあがればいいのか、もう頭で考え始めていました。

でも実際に終わった後に思い起こしてみると、結局このセミファイナルが自分が戦ってきたVOLCOM PIPE PROでのヒートのなかで、ヒート自体が一番ロースコアなヒートだったんですよね。

自分が最後に逆転するのに必要なスコアもたった1.3ptだったわけだし、簡単な話し、2.0ptを2本持っていれば勝てたヒートだったんです。

でもそれはラウンド1でもなくラウンド2でもなくクォーターファイナルでもなく、実はセミファイナルで、そのセミファイナルが一番チャンスだったわけで。

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やっぱりヒートに入っていると、自分次第でいつでもマジックは起こりうるわけで、あのセミファイナルでも自分が自分のど真ん中にいることができれば、あのヒートも普通に行けたヒートだったかも知れない。でも勝手に自分の頭の中で、自分がサイクアウトしちゃって、ああいうヒートになってしまった。

もうテイクオフもままならないし、チューブに入ってももう波の上に持ち上げられちゃうし。

やっぱり人間、自分がやることさえやっていれば、周りが何をしていようといくらKelly SlaterやJohn John Florenceがヒートにいようとも勝つときは勝つし、負ける時は負ける。

逆に言えば、KellyやJohn Johnだって彼らのところに波が来なければ勝てないこともあるわけだし、大会だから何が起こるかわからないのだとすれば、どれだけ奇跡を信じてやれるのかということが大切なのかということにあのKellyとのセミファイナルで気がつかされました。

たとえば、日本人だからできないとか、そういうことではなく、もっと対等に、すべてシンプルに物事が見えるようになったというんですかね。だから、すごく面白いですね。これからがすごく楽しみです。

 

c:今回のVOLCOM PIPE PROでは、若い世代のサーファーたちも多く出場していましたが、その点はどう思いますか?

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Takumi Nakamura, Reo Inaba & Taichi Wakita.

 

M:彼らは本当に素晴らしいと思うし、すごく刺激的だし、やっぱり、やりたい人が、そこにいたくて自主的にやっている人が多いから、それがすごいことだと思いますね。実際に、自分があの世代のときにはパイプラインの波にフォーカスしていたり、世界を意識しているサーファーはあんなにたくさんいなかった。

特にパイプラインというと、ビーチに板を持って行って2時間も3時間も波を見ながら誰が入ってます、彼が入ってます、パイプラインってこういう場所です、っていう固定観念から入っていくけど、特にあのVOLCOM HOUSEに住んで頑張っている村上舜や佐藤魁の2人は、あそこにいるだけで当たり前のようにパイプラインが目の前にあるからやるだけというか、毎日の日課というか、自分のホームブレイクじゃないけど、目の前にあるからただ単に今日もやるでしょ、みたいな身近な関係性が素晴らしいと思います。

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Guy Sato & Shun Murakami @ VOLCOM HOUSE.

 

何よりもあの歳であの環境に飛び込んでいける彼らがすごいと思う。

それだけパイプラインの波を滑れるようになりたいと、そのことを強く求めているということですよね。

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c:今後の予定は?

 

M:もちろん世界の大会にフォーカスしていきます。2015年の前半戦はプライムに入っていないので、後半戦にはプライムに入ること。それと今、興味深いサーフトリップの話しをもらっていたりもしていて、今後自主制作ドキュメンタリー映画を作る予定でいて、そちらの方も楽しみですし、あとはキッズサーファーに向けたフェスティバルのようなものもやりたいと思ってます。

 

c:ありがとうございます。

yoge
サーフィン・プレビュー/吉田憲右著・泉書房、古都鎌倉ミステリー旅/吉田憲右著・コスミック出版など数々の書籍を発行し、2000年にTRANSWORLD SURFの外部スタッフとなったのをきっかけにメディア界に参入。 2001年から2009年10月まで月刊SURFING WORLDの編集部兼カメラマンとして勤務。 その経験と共に、第1回NSA東日本サーフィン選手権大会Jrクラス3位、2年連続THE SURFSKATERS総合チャンプなどテストライダーとして培ってきた経歴を活かし、サーフィンを軸としたスケートボード、スノーボード、ミュージック、アート全般をひとつのコーストカルチャーとしてとらえ、心の赴くままにシャッターを押し、発信し続ける。 >>>出版物 >>>プライベート撮影問い合わせ