Photos & Text by Kuniyuki”kuni”Takanami. / SURFTRIP MAGAZINE.

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オーストラリアを拠点に、自らのサイト”SURFTRIP MAGAZINE“を運営しながら

サーフショットだけでなく、ファッション・シーンにおいても

ワールドワイドに活躍する”kuni”こと高波邦行。

colorsmagがまだライダー時代だった頃から繋がる同じ世代のフォトグラファーであり、

雑誌版、web版共に、colorsmagにも幾度となく

素晴らしい記事を提供してくれているファミリーのひとりだ。

今回のMOVEMENTの記事では、

LSD surfboardsのプロライダーであり、Patagonia Byronbayのアンバサダーでもある

ダスティン・ホリックとバレルを求めて豪州海岸をクルーズした貴重な体験を

kuniこと高波邦行の写心と文章でお伝えしたいと思う。

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日本では想像もつかないくらい、オーストラリアの夜は早い。

8時にはベッドに就くと言う家庭も多く、我が家も例外ではない。

特に家族の時間を大切に過ごす大陸民族にとっては、

夜の8時以降はよっぽどのことが無い限り電話をかけないという気遣いが

なんとなく広がっている。

この夜は珍しく夜の23時頃Iphoneが鳴った。

LSD surfboardsのライダーであり、Patagonia Byronbayアンバサダーの

ダスティン・ホリックだった。

僕はいつも通りビール片手に撮り貯めた写真を編集しながら

Surf FocastやFBをチェックしているところだったので、

話を聞くまでもなく内容を容易に想像した。

案の定、彼から切り出された話題は明日の波についてだった。

予報上ではスウェルの向きも風もすべてが理想的。

「Heyタキ!(ダスティンが呼ぶ僕の新しいニックネーム、タカナミのショートカットらしい)明日夜明け前から出発してバレルをゲットしに行こうぜ。もしかしたらヤンバ辺りも良くなるってルーク(LDSサーフボード シェイパー)が言ってたから、ファンバレルがぐりぐりだぜ!!タキ!な!朝向かいに行くからさ!!」

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翌朝時間通りにダスティンは向かいに来てくれた。

準備万端の彼に答えるべく僕はレギュラーのカメラ機材とウォーターハウジングに加えて

最近あまり出番の無い一番の長玉、800mmズームも車に積み込んだ。

まずはすぐ近くの、僕らお気に入りの場所。

あそこ(シークレット)をチェックして、

もしも今イチな様だったらすぐに南下する予定でいた。

しかし、夜が明け始めうっすらと見えて来てのはグラスの様な美しいフェイスだった。

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4-5ft。

中級者レベルでも思いっきり楽しめそうなファンなバレルがグリグリだった。

迷わず僕らは入水し、数本のバレルを互いにコネクトしながらフレームに納めて行った。

他のフリーサーファー達も黙っていなかった。

完璧に保たれた秩序、順番を守りながら

次々とサーファーが、ボディーボーダーがバレルに吸い込まれて行く。

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Dustin Hollick.

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Unknown Bodyboarder.

 

 

潮が引き切ったタイミングで僕らはパドルイン。

次のビーチへと向かうことにした。

とにかくアドベンチャー好きな僕にとってロードトリップは一つのパッションだ。

いざ車に乗り込み少し走らせると混雑とは無縁の波が、すぐ隣のビーチで割れていた。

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とりあえず腹ぺこだったので

近くのショップでスムージーとパイをテイクアウトして

もう一度波をチェックすることにした。

やっぱり良い波だった。

Aフレームに波がブレイクしている。

さらに弱い南西からのオフショアで、サーファーは数えても10名くらいだろうか。

この季節のオーストラリアは本当に最高のシーズンで、

風がオフショアになる確率がとても高い。

ぼくらがこちらに越して来てから3シーズン目になるんだけど、

毎年同じ様なコンディションになっている。

一番大好きな場所のバンクがまだ戻っていないことだけが残念だけど、

探せば良いバンクはまだそこら中に見つけられる。

もう一度ここでダスティンはパドルアウトし、

ぼくは先ほどとは違ったアングルが欲しかったので

800mmを使ってランドから撮影することにした。

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Dustin Hollick.

 

 

ほんの1時間程のシュートで10数本の手応えがあった。

正直もう今日は十分かな?と思い、

家に帰ろうか?と切り出そうとしていたら、ダスティンの電話が鳴った。

ルーク・ショートからだった。

波が良いらしい。

しかもヤンバまで来れるなら、

それに合せてダスティンの板を今日マシーンにかけてくれると言う。

世界中のサーファーから熱い支持を受けるLSDサーフボード。

ルーク・ショートはそのLSDのシェイパー張本人だ。

かつては自分も、LSDがドロップアウトのシェイパー時代に

親友達が乗っていたこともあって彼の存在と歴史を知っていた。

超多忙なルークにあえるチャンス、しかも波が良いらしい。

道中ダスティンとぼくは眠気に襲われない様に、

カプチーノのダブルショットとパイをもう一つずつゲットしながらヤンバへと向かった。

少し興奮気味のダスティン。

いつにも増して鼻息が荒い。

ダブルショットが効いているようだけど、たぶんそうじゃない。

それもそのはず。

自分の新しい板がいまから削られるのだ。

どんなにLSDのライダーをしていると言っても

その光景を見るのは初めての様で、まるで子供の様に目を輝やかせていた。

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LSD Shaper, Luke Short.

 

 

ずっと目にして来た伝説のディケール「LSD」。

その張本人の実像は思ったよりも小柄で優しそうな男だった。

穏やかで、とても嬉しそうな表情。

ダスティンとの再会を楽しんでいるようだ。

そしてはじめて会う僕に対してもとても紳士的で優しく、

ファクトリーへ向かい入れてくれた。

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Dustin Hollick & Luke Short.

 

 

ヤンバとアンゴーリーにほど近い工業地帯にある一角は

シェイプからラミネート、リペアから販売まですべてのフローが行える様になっていた。

マシーンには大きな集塵機(でかい掃除機みたいなもの)が

備えられていて削られた粉は瞬時にその中へと吸い込み集められる。

この環境で働く人や地球にとっても優しい設計になっている。

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マシーンルームの窓の先にはルークとダスティンが座り、

コンピューターで細かな支持を行っているようだった。

コンピューターの置かれた部屋に入る直前、

ダスティンが乗り込んでいる古いボードをルークに手渡して、

これまでに感じた乗り心地と改善点を伝えていた。

良いところと、次のボードへの希望。

本当に細かいところまで、サーフィンの専門家達が真剣に話し合っていた。

1時間程話し合ったころ、ルークがなにかを閃いた様な表情を見せ数回うなずいた。

奥の部屋に入って行ったルークの目に、先ほどの穏やかさはない。

別人のようだ。

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Luke Short.

 

 

コンピューターのある部屋、ここには多くの秘密が保存されている。

今回は特別に本人の許可を得て撮影させてもらうことが出来た貴重なショット。

シェフ同様、シェイパーにとって板のデータはレシピのようなもので門外不出なのだ。

細かくデータをいじり、理想のデザインになるとフォームをセットした。

それから板が仕上がるまで10分ほどだっただろうか。

3Dモニターで見たままのデザインが現実になる。

しかし、実はこの先が何よりも大切な行程だとルークは教えてくれた。

機械では表現しきれないきめ細かな技、手から伝わる感覚がすべての世界。

たった一振りのサンディングですべてが変わってしまうほどに繊細なコンケーブ。

ファクトリーから出て来たルークの表情はまた先ほどの優しい男に戻っていた。

夕方のセッション、大好きなヤンバの波。

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Dustin Hollick.

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Luke Short.

 

 

ルークとダスティンはこの冷え込み始めた空気の中、

驚くことにトランクスとT-シャツでサーフしていた。

巻きが(ラミネート)仕上がったらまたダスティンの新しい板と

その乗り心地を写真でお伝えしようと思う。

俗にいう、「つづく」by Kuni Takanami

 

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Special Thanks

LSD surfboard
Dustin Hollick
Patagonia Byron Bay
Surfers Eyes

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yoge
サーフィン・プレビュー/吉田憲右著・泉書房、古都鎌倉ミステリー旅/吉田憲右著・コスミック出版など数々の書籍を発行し、2000年にTRANSWORLD SURFの外部スタッフとなったのをきっかけにメディア界に参入。 2001年から2009年10月まで月刊SURFING WORLDの編集部兼カメラマンとして勤務。 その経験と共に、第1回NSA東日本サーフィン選手権大会Jrクラス3位、2年連続THE SURFSKATERS総合チャンプなどテストライダーとして培ってきた経歴を活かし、サーフィンを軸としたスケートボード、スノーボード、ミュージック、アート全般をひとつのコーストカルチャーとしてとらえ、心の赴くままにシャッターを押し、発信し続ける。 >>>出版物 >>>プライベート撮影問い合わせ